パン屋が目指す持続可能な社会

食品ロスをなくすためにできること
近年パン屋が直面している問題、それはパンが大量に廃棄されているという問題です。品ぞろえをよくするため、焼き立てを提供するため、など顧客獲得のための営業方法が多くの店舗で行われており、結果的に大量の廃棄を生んでしまっているのです。
そんななか、今回取り上げたいのは廃棄を出さないパン屋さん「ブーランジェリー・ドリアン」です。 国産有機栽培の麦と自然発酵の種で作られたパンを薪の石窯で焼き上げ、全国発送も受け付けている「ブーランジェリー・ドリアン」さんですが、たびたび「持続可能なパン屋さん」としてメディアにも取り上げられる、話題のお店なのです。

持続可能なパン屋さんって??
SDGsとは、国連の掲げる全世界共通の17の目標です。パン屋さんがSDGsとどのように関わりがあるか理解しがたい人もいるかもしれません。具体的に17の目標に当てはめると、「2.飢餓をゼロに」「3.すべての人に健康と福祉を」「8.働きがいも経済成長も」「12.つくる責任つかう責任」の4つの目標にアプローチしているようにとらえることが出来ます。今では全国から発注も承る人気店ですが、数年前までは前日夜から寝ずに仕込み作業をし、お店も朝から夕方まで営業しているにも関わらず、売れ残りが出てしまい、毎日パンを廃棄していたといいます。「ブーランジェリー・ドリアン」 が、注目されるパン屋さんになるまでのきっかけをご紹介したあとに、現在の経営スタイルが、上記SDGs4つの目標のどれに当てはまるかご紹介していきます!
1年の休業で気づいたこと
ある日オーナーの田村さんは、外国人の友人にこう言われたといいます。「パンを捨てるのは、おかしいよ」。田村さんはその問題を頭では認識しながらも、「長時間の労働で多くのパンを作っても、売れ残るのは仕方のないこと。悲しいことだが廃棄が出るのは当たり前。それが日本全国のパン屋の普通だろう」と思っていました。
しかし、そのような経営スタイルから脱却しようと、ある日思い立ち行動に出ました。お店を休業し、約1年ヨーロッパに修行に出たのです。
田村さんは、そこで出会ったパン作り、そしてパンそのものの存在に感銘を受けました。そして日本でも同じようにしてパンを作れないか、試行錯誤を重ねました。
ヨーロッパで目にしたのは、一見手抜きにも見えるパン作りでした。日本では当たり前の、二度発酵させるという工程も無い、それでも驚くほどおいしいパン。さらに食卓ではパンに色々な料理を乗せて食べたり、硬くなったパンでも工夫をして食べきったりする知恵がたくさんあったのです。
(参考・引用:『捨てないパン屋』, 2018, 田村陽至, 清流出版)

再出発に向けて ~SDGsとともに~
帰国後は、工場設備やスタッフの配置、経理、商品とあらゆる面を改善させていきました。課題となっていたパンの廃棄を減らすため、SDGsの4つの目標が達成できるよう材料の見直し、販売方法の変化などを行いました。
「2.飢餓を0に」「3.すべての人に健康と福祉を」
まず取り組んだのが「2.飢餓を0に」「3.すべての人に健康と福祉を」です。原材料は粉、水、塩のみを使用。粉は、有機栽培された最高級のものを使い、店内には生産者と栽培方法を掲示しています。価格が輸入小麦の倍になっても、チーズなどの食材を無くすことで調整しました。原材料を少なくしたことで、健康的かつパン自体の賞味期限も伸び、冷蔵保存で2~3週間ほど持つパンが作れるようになりました。
休業前は総菜パンなど20種類以上商品を並べていましたが、現在は2種類に。ヨーロッパで見た製法を再現し、 だれでも安心して、食べ続けることが出来るパンを完成させたのです。パンは特別ではなく、日常的に食べるものであると店主の田村さんいいます。そのため、美味しいパンへのこだわりは捨てず、休業前と同じ値段で安心、安全なパンを提供したいと考えたのです。
「8.働きがいも経済成長も」
その次に取り組んだのは「8.働きがいも経済成長も」です。スタッフは一時期の8人でしたが、ご夫婦で製造と販売それぞれ一人ずつに分担しました。そのため、スタッフにパン作りを丁寧に教える時間も無く、安い給料で雇わざるを得なかったのを、意を決してご夫婦での経営に変えました。今は、無給で研修生を受け入れており、元研修生たちは、全国各地に散って活躍されています。
1週間のうち営業日は3日、全国へ発送用のパン作りに2日、仕込みだけの日が1日。毎日昼には仕事を終えて、午後の時間は自由に使っているそうです。週休1日ですが、毎年1か月から1か月半の長期休暇をとっているというのは、働く日本人特に自営業のパン屋さんにとっては、なかなか考えにくいのではないでしょうか。
「12.つくる責任つかう責任」
販売方法にも工夫がされています。これはSDGsの「12.つくる責任つかう責任」にあたる部分です。12時から18時までの営業時間で売り切ることがほとんどだといいますが、売り切れなかった時は、交流の深い移動販売のお店などに託して、売り切る。それでも残ったものは、翌日割引して販売しています。さらに、インターネットでの定期販売も始めました。店内で予約もできますが、今は顔と名前の分かる常連さんのみ、とされています。売れ残りに繋がってしまう、予約キャンセルへの一つの対策です。
このようにしてお店をリニューアルし、パンの廃棄はゼロになりました。営業日も、働く時間も減りましたが、売り上げは休業前と同じというから驚きです。

持続可能な開発とは
上で見てきたとおり、 「ブーランジェリー・ドリアン」 の取り組みはSDGsに関連が深いようです。しかし 「ブーランジェリー・ドリアン」 の場合は、「SDGsが話題だから、取り組みはじめました。」というモチベーションで始めたのではなく、「おいしいパンを届けたい、丹精込めたパンを捨てたくない、働きづめを解消したい」という思いから取り組み始めたような印象を受けます。
ヨーロッパ修行中に目にした働き方やパン作りに感銘を受け、日本でも同じことが出来ないかと、ご自身のお店で試行錯誤して取り組んでいるといいます。「ブーランジェリー・ドリアン」 が持続していくための工夫が、SDGsにも関わっていて最近特に注目されはじめたと表現した方が正しいかもしれません。
SDGsは「持続可能な開発目標」と訳されますが、全ての組織が持続するための具体的な方法・工夫は、一緒ではないはずです。SDGsは、言ってしまえば国連が定めた共通の目標です。17の目標を達成しただけでは、理想的な持続可能な社会にはなり得ません。
ご自身が所属する組織の持続するための工夫が、SDGsにも繋がっているならば持続可能な開発のゴールに一歩近づくのではないでしょうか。